from[the selective sun] (unselected version)

                                         
 自分の足の置き場所。
 左側。
 ハイハットのペダルの角度、いつもどおりで、靴の裏側とジグソーパズルみたいに合う感じがする。
 いつもどおりに組んでるドラムセット、あたしの手足とそれぞれ磁石でくっつくみたいに、あたしの身体のかたちそのまま囲むみたいに。
 ぴったり収まってる。
 あたりまえみたいに。
(――take me home)
 桐哉が歌った、その意味、少し考えた。
 つれてって。
(to the place I belong)
 あたしのいるべきところ。
 あたしたちの。
 帰る場所。
(みんなひとつの場所にしか帰らない)
 同じだと思った。
 あたしの好きな大事な人たちはみんな。
 ――take me to the music.
 ここにしかいたくない。

「あああ僕ぜったいに長生きできない……」
 拝むみたいに両手のなかにマイクつかんで顔と前髪の間、おしつけて、そのまんまマイクによっかかっちゃうみたいな恰好で、藤谷さんがまた言ってる。
「なんかねえ明日あたりにぜったい死んでる気がする。だめだ僕こんな凄い音ばかり考えてたら。あのさあごめんね高岡君、いつかうちのドアあけたとき廊下で俺の腐乱死体みつけてもびっくりしないでください」
「慣れてるから大丈夫よ」
 しらっと尚が答えてた。ほんとに慣れてた。
 左手にギター。光沢のきれいなネック、持って。前歯に、白いピック噛んでた。ピックの表面にTBのロゴが入ってる。
「ああでも泣いてくれるよね」
「その節は?」
「そう君がその第一発見者になった場合は。号泣しなくていいから涙二粒くらいは必須でよろしくおねがいします」
「さだまさしの『関白宣言』?」
「えっ俺そこまで贅沢なこと言ってないよ」
「へえ、そう」
 近くで。
 内緒話みたいに二人で話してる。
                                         

※ 1999年2月 未発表原稿

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