若木未生インタビュー 5

◎インタビュアー・旭那美里(A) 水無月あお(M)
A 今後、若木さんの作品世界はどんどん広がっていくのだと思いますが、執筆の予定を教えて下さい。
若木 どんどん外の世界で戦っていきたいんです。まるで宮本武蔵の武者修行のようですけど。いろんな流儀の人たちと戦って、自分を強くしていきたい。
 今まで私は、十年くらい、コバルト文庫とスーパーファンタジー文庫という場所で、ライトノベルの、それもちょっと女の子側が多いっていうところでやってきたわけですよね。それは自分の中でもすごく大事な場所なんですが、ひとつの流儀でずっと戦ってるような感じがあって。ひとつの流儀の中でも、今日はちょっと竹刀を持たずに木刀で戦ってみようとか、いろんな戦い方を試してはきたんですけど。
 もっといろんな戦いをして強くなりたい。
 強くなるっていうことは、良い作品が書けることだと思ってるんです。
 だから、作品のためですね。ハイスクール・オーラバスターとかが更に進歩するたるめ、もっといいものを書いていきたいからです。
 作品しか大事じゃないです。
 そうやって私が外で戦いたいと言うと、じゃあ若木さんはコバルト文庫を卒業しちゃうの、ハイスクール・オーラバスター書かなくなっちゃうの、と心配する人もいるんですけど、逆なんですよね。私の場合は、世界は自由に広げたいですけど、それでライトノベルを書かなくなっちゃったら意味ないなと思ってます。だから、大丈夫ですと言ってあげたい。大丈夫って言われてもまだ安心じゃないという人には、じゃあ書くから現物を読んでくれと。
 今後の予定は……何月に何が発売とはまだはっきり言えないんですが、徳間デュアル文庫で始めた『メタルバード』の2巻が、近いうちに出るかなと思います。これは、去年から新しく書きはじめたスペースオペラで、エンターテイメントを意識した作品です。私の既存のシリーズには長く続いているものが多いので、気軽に途中から読みだすのってむずかしいだろうなと思うんです。この作品は、今まで若木作品にふれたことがない人でも、あまり苦労しないで入ってもらいたいなと。そういうポジション付けの新作です。
 今までの作品の続きをどんどん書いていくということだと、今年は『オーラバスター』と『グラスハート』が中心ですね。それと『イズミ幻戦記』を再開したいと思ってます。今、『イズミ幻戦記』はしばらく休んでしまってるんです。諸々事情がありまして、発刊元のスーパーファンタジー文庫そのものがなくなっちゃったりしたので……いろいろ大変ではあるんですが、ちがう場所に移して、また始めるつもりです。この3本が、今年中に進めていきたいシリーズです。
 それと、まだみんなが見たことがないような、若木さんこんな挑戦もするのね~みたいな、ビックリしてもらえることもやりたいな、と。
 「文学メルマ!」でやっていること自体、ビックリなのかもしれませんが。何してるの~? って感じかもしれないけれど(笑)。これからまたもっと、良い意味で驚き続けてもらいたいんで、そういうことをやっていきたいです。
編集長 不滅っていうことに興味がありますか? 滅びない、ということについて。普通の小説や映画というものは、崩壊と再生みたいなところを描くでしょう。喪失と再生とか。でも若木さんのはもっと強くて、滅びないという。『ラッシュ』もそうですね。今度の本は『不滅の王』というタイトルだし。何かものすごい強いコアを欲しているんだなっていう。
 そういう人って珍しいよね(笑)。
若木 ああ、そうですね、本当ですね。不滅は私にとって大きい言葉ですね。気がつかなかった。これは珍しいんでしょうか。
 でも、たしかに絶対不滅なものがあることを信じていますね。それは、全部のものが滅びないわけはないというのは分かっているうえで、何かは崩れていくし何かは無くなっていくけど、絶対不滅なものはある。そう信じてますね。
 『ラッシュ』は、ふだんから私の作品を読んでくださっている方には、一瞬ビックリされるかもしれませんね。どこに行くんだ? って印象かもしれないです。だけど根本が結局そこですよね、最後に何を欲するかというところが。
編集長 今日のインタビュアーの二人は高校生ですが、そういう世代の人達にとって、小説や音楽……つまり表現から受け継ぐものがすごく少ないと思うんですよね。ぼくなんかは70年代のアンダーグランドカルチャーとかロックカルチャーの洗礼を受けて、ストーンズとかね。彼らが兄貴分で彼らから表現のコアみたいなものを教わって、その結果ぼくは作家になったわけです。あの頃は、若い世代のフラストレーションとか閉塞感とか、そういうものを受け取ってくれる表現者達がたくさんいたんだけど、今はそれが少ないような気がします。
 文学の世界でも、文学は滅びると言われて久しいけど、小説で高校生が読んで僕らにとってのロックの代わりになるようなものはすごく少なくでしょう。若木さんの作品は、そんな中で数少ない表現のひとつだとぼくは思います。
 それに『ファイナルファンタジー』や宮崎さんのアニメなんかは、たぶん3百人くらいで作っているわけだけど、いや、もしかしたらもっと多いかもしれないけど。でも若木さんは一人でつくっている。それはやっぱり、すごいことだと思う。今はひどい時代じゃない? アフガニスタンの空爆もひどいし、人間が遺伝子から改変されるという状況になってる。そういうことを、若い子達はみんな知ってるわけですよね。希望というものを見出しにくい時代だと思うんだけど、そんな中で若木さんの作品は数少ない希望のひとつだと思います。そういう立場の若木さんから、バトンを渡す意味で、私についてこい、でもいいしさ。なにか読者へのメッセージはありませんか。もっと苦労しろ、でもいいし(笑)
若木 世界とか人間の状況については、あまり気楽なことは言えないです。絶対だいじょぶだよ~とか。まあ、安心しとけーとか言うと、その場はなごやかになるけど、ウチに帰って3、4時間経つと、いややっぱりちょっと、と思うでしょう。今、だいじょぶだよ、ヘーキヘーキ、そっかー、お茶飲んで楽しいねー、と言い合っても、帰ってからしょんぼり、とかなるじゃないですか。
 そういう意味での、3時間くらいしか有効期限がない言葉っていうのは、言いづらいんですよね。それをあえて言い続けるのも立派な仕事なんでしょうけど……。たとえば大怪我して生きるか死ぬかの瀬戸際に、3時間だけでも麻酔薬が効いたら、すごく助かりますよね。ただ、そういう薬は、常用すると危険じゃないかなと。
 私はやっぱり、自分の小説や自分の言葉で、短い一瞬だけ安心させることとか、簡単にその場だけなぐさめることとかは、あんまり出来ないんです。そうすると読者のみなさんの、「自分はどうしたらいいんだろう」とか「世界はどうなっていくんだろう」っていう不安は、なかなか消えないかもしれない。ひどい時代だなっていう事実は、どっかに、心の中にずっと置かれ続けるんじゃないかと思います。
 そんなふうには思うんだけど、私はきっと、それでも必ず信じているものがあって、だから私の小説を書き続けていくと思うんですよ。
 私が信じているものは絶対消えない、それを絶対書き続けるっていうことだけは、約束出来ると思います。
 ほんとに死ぬまで小説は書くと思うし、死んでも小説は残るし。
 だから、一瞬不安になったり怖いなと思ったりすることもあるかもしれないけれど、私の作品はいつでも絶対ここにあるってことを思い出して読み続けてもらえたら、私はとても嬉しいなと思います。

編集長 うーん、素晴らしい。皆さん、今日はどうもありがとうございました。いいインタビューだったね。
A ありがとうございました~。
M うれしかったです。
若木 こちらこそ、ありがとうございました。
(終わり)
【インタビュー後記】

 ■旭那美里
 めちゃめちゃ緊張してしまいました~。若木先生がいらした時には、もうどうしようかと…。でも、とっても楽しかったです。
 若木先生とお話をして驚いたのは、しゃべりがオーラバの諒ちゃんみたいだったこと。よくとっさに出てくるな、みたいな楽しい言いまわしが。若木先生が書いてるんだから当然なのかもしれませんが、この方が作者様なのね、と実感です。
 先生、これからも楽しみにしてます!
 ■水無月あお
 先生ご自身を前にしても‘この人が小説を書いてるんだ’という実感は湧きづらいのですが、会話をしてみると先生が持っている色々な面を個々に形にあらわしたものがオーラバのキャラであるような気がしました。(私にはインタビューに応じてくださる先生の姿勢、発言がまるで里見十九郎のように見えました・笑)。
 言葉の重さを知っていて深い話が書ける人が先生のような若い方の中にいることを嬉しく思います。本当にお会いできてよかったなと思わせてくださる方でした。
 ■若木未生
 若い読者の人とお会いする機会はときどきあるんですが、こういうふうにインタビ
ューしていただくのは貴重な経験でした。
 せっかく現役の高校生がいらっしゃったので、私からももっとつっこんで質問して
ナマのティーンエイジャーの声をお聞きすればよかったかな、と後から思いました。
でも、短い時間でしたがお話ししているあいだ、お二人の綺麗でクリアな感性が伝わ
ってきました。とても楽しかったです、どうもありがとうございました。

※初出 2002年「文学メルマ!」

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