extra-『永劫回帰ステルス』

■7月25日発売『かつくら vol.23 2017夏』(桜雲社)に『永劫回帰ステルス』特集記事&若木未生インタビューが掲載されます。 http://amzn.to/2tUrz2v

■『永劫回帰ステルス』サイン本販売書店様のリストです。(書店様へのお電話でのお問い合わせはご遠慮ください) http://wakagimio.com/archives/3674

■オリオン書房・所沢店様に、須賀しのぶ先生とのダブルフェア「夏の本棚」を組んでいただけることになりました。7月26日頃より開始予定とのことです。サイン本販売、ペーパー配布(夏をイメージした本を10冊選び、コメントを書きました)があります。詳細はツイッターの公式アカウント @Orion_Tokoro をご覧ください。

『永劫回帰ステルス』書影
『永劫回帰ステルス』書影

NEW ISSUE『永劫回帰ステルス 九十九号室にワトスンはいるのか?』

illustration:モゲラッタ
design:百足屋ユウコ(ムシカゴグラフィクス)

講談社タイガ http://taiga.kodansha.co.jp/author/m-wakagi.html
2017年7月21日頃発売 
ISBN 978-4-06-294082-5 定価630円+税
講談社BOOK倶楽部(試し読み、書店在庫検索、オンライン書店リンク集など) http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062940825

神を殺したことはあるか?

 ◆

CHARACTERS

来見行(キタミ・コウ)   “探偵” 
「僕の極度に絶望的なコミュニケーション能力の低さと社会性のなさを舐めるな」
鏡秋太郎(カガミ・シュウタロウ)   “ワトスン”
「なにしろ神はもう死んじゃってるから」
半井羽衣(ナカライ・ハゴロモ)   秋太郎の恋人 
「法曹界をめざすあたしの正義感がオートで仕事を開始しそうなんだけど」
来見勝(キタミ・ショウ)   “マイクロフト” 
「異界のしきたりを弄ぶのは無粋というものだ」

SAMPLE SEQUENCE

 サークルの名前はどこにも書かれていない。
 九十九号室の扉を、秋太郎はノックする。応答はない。
「ここだと思うんだけど」
 応答はないが、勝手にドアノブをにぎり、手前に引いてみた。
 錠はかかっておらず、扉はかろやかに動いた。
「うわ」
 秋太郎が顔をしかめたのは、室内にさまざまな物が押しこまれ、とんでもなくとっちらかっていたからだ。部屋の前半分には会議用の長机とパイプ椅子の存在がかろうじて確認できるが、部屋の半分から奥は、ただの粗大ごみの山だ。
「こんにちは!」
 あきらめず扉の内側に首をつっこんで、声をかける。
「ここが、『仮面応用研究会』の部室ですよね……このサークル棟の一階の案内板に、そう書いてあったんですけど」
 それでもやはり応答はない。
 ひとけのない暗い室内で、微量の光が不規則にゆれている。長机のうえに置かれたノートパソコンに電源が入っており、スクリーンセーバーが稼働しているのだった。
 秋太郎はまず扉付近の壁をさぐって照明のスイッチを発見し、天井の蛍光管を点灯させる。
 電源の入ったまま放置されているノートパソコンが気になり、それに歩みよってディスプレイの角度を変えようとした。
「サワルナ」
 ふいに足元から若い男の声がした。
「うおう。未確認生命体」
 びっくりして秋太郎は動きを止める。
 もぞもぞと、黒い袋が床でうごめいた。大きなごみ袋だと秋太郎は思っていたのだが、それは勘違いで、よく見てみれば中綿入りの本格的な筒型の寝袋だった。
 寝袋のてっぺんから、くしゃくしゃの頭が出てきた。
 ゴールデンレトリバーの尻尾みたいに手触りのよさそうな、艶やかな光を帯びた金色の髪の毛だった。なのに、ひどい寝癖で台無しだ。
 照明にさらされたその人物の顔の造作も、どうやら本来は一ミリの瑕瑾もないアンドロイドのように端正な美貌であるのに、この寝起きのコンディションでは瞼がほとんど開いておらず、至極残念なことになっていた。
「ええと」
 秋太郎はちょっと思案する。
 ひとまず片手を掲げ、挨拶をした。
「Bonjour?」
「フランス人じゃない」
 仏頂面で、金髪の若者が言いかえす。
「純粋に日本産だ。むしろ僕のどこをどう観察して推察した結果『フランス産』という結論に帰着したのか不思議でならない。理解にくるしむ」
「あー、そうなんだ。『サワルナ』って先輩が微妙なカタコトで言うから、よその国からいらしたひとかなと」
「カタコトじゃない。一週間くらい他人と口をきいてないから声帯が退化した……」
 ごほん、と喉にひっかかる咳をひとつして、彼は秋太郎をじろりと睨む。
 猫のマタサブローとそっくりの表情だなと秋太郎は思う。
 こんなふうに警戒心マキシマムで睨まれるのには慣れている。
「で、だれ?」
「俺は文学部一年生の鏡秋太郎です。先輩は『仮面応用研究会』の……」
 秋太郎は部室のなかを見まわす。
 扉の横の壁に、学生自治会によって発行された『部室利用許可証』が、厄除けのお札のように掲示されていた。
 黒い油性マジックで『サークル責任者・来見行』と書いてある。
「……会長の、クルミ先輩?」
「ちがう。キタミだ」
「へえ、『来見』でキタミって読むんだ。おもしろい。……キタミ、イク先輩?」
「ちがう。キタミコウだ。きさまは漢字の読みかたの勉強をしにきたのか? すごく邪魔だからすぐに出ていってほしい。すごく邪魔だし眠い」
「いや、俺、ここのサークルの活動を見学したいんですけど」
「新規会員は募集していない。定員オーバーだ」
「嘘でしょ」
「嘘じゃない。定員一名で終了だ」

 

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