extra-『永劫回帰ステルス』

■コミックマーケットで配布した「set the flag 2017」掲載のショート小説「MからLへ」を、このページにアップしました。一番下にあります。

■9月8日発売「月刊ニュータイプ 2017年10月号」(KADOKAWA)に『永劫回帰ステルス』紹介記事&若木未生インタビューが掲載されています。是非ご覧ください。 http://amzn.to/2wUEULT

■7月25日発売『かつくら vol.23 2017夏』(桜雲社)に『永劫回帰ステルス』特集記事&若木未生インタビューが掲載されています。是非ご覧ください。
新刊サイン本の読者プレゼント(3名様)もあります。巻末のアンケート葉書でご応募ください。 http://amzn.to/2tUrz2v

■『永劫回帰ステルス』サイン本販売書店様のリストです。(書店様へのお電話でのお問い合わせはご遠慮ください) http://wakagimio.com/archives/3674

■7月26日より、オリオン書房・所沢店様にて、須賀しのぶ先生とのダブルフェア「夏の本棚」実施中です。新刊サイン本販売(お電話 04-2991-5511 での、取り置き、代引きでの通販も可能です)、ペーパー配布(夏をイメージした本を10冊選び、コメントを書きました)があります。詳細はツイッターの公式アカウント @Orion_Tokoro をご覧ください。※サイン本は完売いたしました、ありがとうございます!

『永劫回帰ステルス』書影
『永劫回帰ステルス』書影

NEW ISSUE『永劫回帰ステルス 九十九号室にワトスンはいるのか?』

illustration:モゲラッタ
design:百足屋ユウコ(ムシカゴグラフィクス)

講談社タイガ http://taiga.kodansha.co.jp/author/m-wakagi.html
2017年7月21日頃発売 
ISBN 978-4-06-294082-5 定価630円+税
講談社BOOK倶楽部(試し読み、書店在庫検索、オンライン書店リンク集など) http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062940825

神を殺したことはあるか?

 ◆

CHARACTERS

来見行(キタミ・コウ)   “探偵” 
「僕の極度に絶望的なコミュニケーション能力の低さと社会性のなさを舐めるな」
鏡秋太郎(カガミ・シュウタロウ)   “ワトスン”
「なにしろ神はもう死んじゃってるから」
半井羽衣(ナカライ・ハゴロモ)   秋太郎の恋人 
「法曹界をめざすあたしの正義感がオートで仕事を開始しそうなんだけど」
来見勝(キタミ・ショウ)   “マイクロフト” 
「異界のしきたりを弄ぶのは無粋というものだ」

SAMPLE SEQUENCE

 サークルの名前はどこにも書かれていない。
 九十九号室の扉を、秋太郎はノックする。応答はない。
「ここだと思うんだけど」
 応答はないが、勝手にドアノブをにぎり、手前に引いてみた。
 錠はかかっておらず、扉はかろやかに動いた。
「うわ」
 秋太郎が顔をしかめたのは、室内にさまざまな物が押しこまれ、とんでもなくとっちらかっていたからだ。部屋の前半分には会議用の長机とパイプ椅子の存在がかろうじて確認できるが、部屋の半分から奥は、ただの粗大ごみの山だ。
「こんにちは!」
 あきらめず扉の内側に首をつっこんで、声をかける。
「ここが、『仮面応用研究会』の部室ですよね……このサークル棟の一階の案内板に、そう書いてあったんですけど」
 それでもやはり応答はない。
 ひとけのない暗い室内で、微量の光が不規則にゆれている。長机のうえに置かれたノートパソコンに電源が入っており、スクリーンセーバーが稼働しているのだった。
 秋太郎はまず扉付近の壁をさぐって照明のスイッチを発見し、天井の蛍光管を点灯させる。
 電源の入ったまま放置されているノートパソコンが気になり、それに歩みよってディスプレイの角度を変えようとした。
「サワルナ」
 ふいに足元から若い男の声がした。
「うおう。未確認生命体」
 びっくりして秋太郎は動きを止める。
 もぞもぞと、黒い袋が床でうごめいた。大きなごみ袋だと秋太郎は思っていたのだが、それは勘違いで、よく見てみれば中綿入りの本格的な筒型の寝袋だった。
 寝袋のてっぺんから、くしゃくしゃの頭が出てきた。
 ゴールデンレトリバーの尻尾みたいに手触りのよさそうな、艶やかな光を帯びた金色の髪の毛だった。なのに、ひどい寝癖で台無しだ。
 照明にさらされたその人物の顔の造作も、どうやら本来は一ミリの瑕瑾もないアンドロイドのように端正な美貌であるのに、この寝起きのコンディションでは瞼がほとんど開いておらず、至極残念なことになっていた。
「ええと」
 秋太郎はちょっと思案する。
 ひとまず片手を掲げ、挨拶をした。
「Bonjour?」
「フランス人じゃない」
 仏頂面で、金髪の若者が言いかえす。
「純粋に日本産だ。むしろ僕のどこをどう観察して推察した結果『フランス産』という結論に帰着したのか不思議でならない。理解にくるしむ」
「あー、そうなんだ。『サワルナ』って先輩が微妙なカタコトで言うから、よその国からいらしたひとかなと」
「カタコトじゃない。一週間くらい他人と口をきいてないから声帯が退化した……」
 ごほん、と喉にひっかかる咳をひとつして、彼は秋太郎をじろりと睨む。
 猫のマタサブローとそっくりの表情だなと秋太郎は思う。
 こんなふうに警戒心マキシマムで睨まれるのには慣れている。
「で、だれ?」
「俺は文学部一年生の鏡秋太郎です。先輩は『仮面応用研究会』の……」
 秋太郎は部室のなかを見まわす。
 扉の横の壁に、学生自治会によって発行された『部室利用許可証』が、厄除けのお札のように掲示されていた。
 黒い油性マジックで『サークル責任者・来見行』と書いてある。
「……会長の、クルミ先輩?」
「ちがう。キタミだ」
「へえ、『来見』でキタミって読むんだ。おもしろい。……キタミ、イク先輩?」
「ちがう。キタミコウだ。きさまは漢字の読みかたの勉強をしにきたのか? すごく邪魔だからすぐに出ていってほしい。すごく邪魔だし眠い」
「いや、俺、ここのサークルの活動を見学したいんですけど」
「新規会員は募集していない。定員オーバーだ」
「嘘でしょ」
「嘘じゃない。定員一名で終了だ」

 

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SHORT NOVEL

※夏のコミックマーケットで配布した「set the flag 2017」掲載のショート小説です。

MからLへ

 さすがに、と鏡秋太郎は思った。
 さすがに看過しかねるレベル、と。
 いつものとおりサークル棟の九十九号室、仮面応用研究会略してカメカイの部室の扉をあけた瞬間に、もうどうにも眼をそらしがたい違和感が鎮座していた。
「いや、待って。何キロ増量?」
「遅い」
 仏頂面で来見行が答えた。
 その相貌はあいかわらず陶器製の人形のように完成されており、ダークブロンドの髪も、若干の寝癖はついているものの、まあ美しいといえる。
 しかし首から下が、ものすごく問題だ。ものすごく体積が増しているのだ。プロレスラー並みに。
「遅いって何が? 手後れという意味?」
「そうじゃない。僕はTシャツのサイズをMからLに変えるところから始めた。それが十日前だ。そして毎日、徐々に変化を加えていった。しかしカガミは今日までノーリアクションだった。観察眼が足りない」
「あー、Tシャツのサイズか。Tシャツの絵柄が血みどろの『メロン熊』だったから怖かった記憶しかない」
「十日前の僕のTシャツの絵柄は記憶しているのか?」
「Yes, of course. なぜなら俺の日記に書くから」
「きもちわるいな」
 コウは少し寒気をおぼえた顔になり、ぺろりと自分のTシャツ――今日の絵柄は『バリィさん』だ――の裾をめくって腹を露出した。六つに割れたみごとな腹筋があらわれる。
 ただし、よくできたシリコン製の偽物だ。二の腕からも、太腿からも、ふくらはぎからも、コウがばりばりとシリコンの塊を剥がした。
「いざというときのために、変装のバリエーションを用意しているところだ。マッチョの身体はこうやって筋肉に重点を置いて作れるが、肥満体に化けるほうがむずかしいな。二重顎の特殊メイクに時間がかかる」
「いかついマッチョの変装でいたら、コウと友達になろうとする人はいないよね。そしたら友達は俺だけかー。なんだか楽しいからいつもマッチョでもいいかも」
 にこにこ微笑みながら秋太郎が突拍子もないことを言う。
 コウが三秒ほど深く考えこみ、ぶるっと頭を振った。
「きもちわるいな!」

終【初出2017/8】