◎インタビュアー・旭那美里(A) 水無月あお(M)
A 作家になる前に影響された作品として『機動戦士ガンダム』などをあげていらっしゃるんですが……。
若木 あげてますねえ。世代として、そういう人はかなり多いと思います。
A 私もビデオやDVDで見てとても好きな作品なのですが、当時はやっぱり、ものすごくハマッてらっしゃいましたか?
若木 そうですね、作中のセリフ全部言えるくらいには(笑)。ただ、ハマるっていう感じが、今のアニメファンの人が「エヴァンゲリオンが好きダー」とか「アヤナミ~」って思って一生懸命フィギュアやグッズ揃えたり、同人誌買って、っていう、そういうハマり方をする世代ではまだなかったですね。もっと初歩的で、ノウハウはなくて、なんか衝動だけがあってウロウロしてるっていう。アニメーションが「子供向け」だけの枠をはみだしてきた、そういう黎明期でしたね。
私は機動戦士ガンダムは、映像自体はあんまり繰り返しては見ていないんです。中学生くらいの時期にTVで再放送されていたものを見て、あと映画三部作ですね。だから映像として見た回数は少ないほうなんですが、でもその頃、思春期の頃に見たものってずっと焼き付いてるんですよね、自分の中に。
あと、『機動戦士ガンダム』というそのままのタイトルで、小説版を、監督の富野由悠季さんが書かれてるんです。その小説をものすごく繰り返して読んでます。中学生の時から、今まで何百回も読んでると思います。今でもちょっと疲れたときなんかに読み返してみるんです。当時の富野さんの文章がものすごく好きなんです。文章フェチなので。そういうハマり方をしてましたね。
M 『ファイナルファンタジー10』などのゲームをプレイしたりもされてますが、アニメやゲームから吸収したものは多いと思いますか。
若木 多いでしょうね。今は吸収というだけじゃなく、いつもその時代に応じた面白さを知っておきたいんだと思います。アニメやゲームにかぎらず、漫画でも映画でも、エンタテインメント、面白い娯楽として流通してるメディアは、小説にとってつねにライバルなので気になります。敵の手の内は知らなきゃいけない。
山川さんもそうだと思うんですけど、初めて『ファイナルファンタジー』をやったとき、すごいぞ面白いぞという気持ちと、こんなものが出てきたのなら小説はなおさら頑張らねば負けるぞなんて(笑)ことを思って。
ゲームは特に、ハードが成長していくスピードが速かったですよね。毎回、どんどんシステムが進化していくじゃないですか。ファミコンだとこんなに少ないドットの画像でやっていたのが、スーファミ、プレステになると、デカくなって鮮明になっちゃって、音楽も昔は3つくらいの音しか出なかったのが今はフルオーケストラが聞こえるよって……。そういうふうになっていくじゃないですか。
新しい表現を見るたびにファイトが湧くんですよね。
負けられぬ! みたいな。
敵が強ければ強いほど、越える山が大きければ大きいほど、ファイトは湧きますから、それは嬉しいってことでもあります。
アニメも今はあまり見てないんですけど、思春期の頃にかなり大きなものを吸収してたんじゃないかと思います。今はあのように偉大な存在になってしまってる宮崎駿さんたちが、ぜんぜん普通にTVの現場に居て、たくさん良い作品を作っていて、それをすごいこととも知らずにだらーっと見てきたっていう。TVのスイッチつければあるんだ、当たり前だと思って見てきた、有り難い時代があって。
お茶の間で、今週の「ルパン三世」面白いなーって思って見てたら、それの演出をしてたのが実は宮崎駿さんだったりするんですよ。そういうところでいろんな人の優れた才能を分からないまま浴びてきたっていう、その有り難さは絶対自分の中に残っていると思います。
逆に、何かものすごい人間観察の厳しさとかニヒリズムという部分も、ずいぶん浴びちゃったなと思いますけど。たとえば子供の頃から富野由悠季さんの作ってきたアニメ作品を一生懸命見てきたわけですけど、毒が強いというか、「こんなキツイもの子供に見せたら人格形成に悪いわ」ってものが奥底に入ってるんですよ。かなり悪い影響がありますね。だけど本当はPTAに「子供に見せちゃいけない」と怒られるようなものほど、人間の真実に近いし、面白いんですよ。で、いろんな作品から、悪いものを学んじゃったなーって思います。くそー、あの作品のせいで、とか。それはしょうがない。私の中に、そういう遺伝子が入ってしまったのだから、と。自分もそれは継承していくしかないなと。
(続く)
※初出 2002年「文学メルマ!」