著者: 若木 未生
タイトル: 真・イズミ幻戦記―暁の国〈1〉
ねこばなしといいつつ
自分の本の宣伝かいな!
いや…その…
この2匹の猫の名前をつけたのは
私ではないのでございます。
それともやはり、私なのか?
あるとき、友達が電話してきたのです。
「捨てられてた子猫を2匹拾ったの!
その子猫たちがね、
あなたの本(イズミ幻戦記)に出てくる
『拓己』と『省吾』に、見た目そっくりだったから、
拓己と省吾って名前をつけちゃったの。
そういうわけで、
このふたりは、作者のあなたに飼ってもらわないと!」
……。
友よ……。
そういうわけでって何だ。
思えば、巧妙に騙された気もする。
うまーく、私が飼うように、仕向けられた気もする。
ともかく、友の機転と、どこぞの神様のおぼしめしと、ちょっとした偶然で、
かれらは拓己と省吾と呼ばれることになり
私の家にころがりこんできたのでございます。
ありがたや!
「自分の小説のキャラクターの名前を、猫につけてるオレ…」
我に返ると、ちょっぴり恥ずかしい。
でも、まあ、いいんだ…
ほんとに似てるし…
(まだ騙されてるのかしら…むむむむ)
猫飼いの頭の中は基本的に
猫飼いの家には猫グッズが増える
猫なんか好きじゃなかったんだ
『海に出るつもりじゃなかった』…という感じ(元ネタはアーサー・ランサムで)なのだった。
猫なんか好きじゃなかった。
実家で同居してたおばーちゃんが猫嫌いだったから、その影響かもしれない。
ちなみに、おばーちゃんが猫嫌いになった理由は、泣かす。
むかし戦後まもない頃、ろくに食べ物の手に入らない頃に、
おばーちゃんは苦労して、たいそう苦労して、お魚を(ウナギだったかな)手にいれた。
病気で寝ていた夫(私のおじーちゃんですな)に、
栄養のあるものを食べさせようと…!美談だ!
なのに、
ふと目を離した隙に、
その貴重な魚が、
消えているじゃないか!
そして、わずかに見えたのは
走り去る
どらねこの尻尾…!
そりゃ泣くなあ。私もそんな目にあったら、きっと泣く。
かくして、おばーちゃんは、「おさかなくわえたどらねこ許すまじ」の人となったのです。
実家では、ずっと犬を飼っていました。
犬の忠義心や、まじめな性格は、かわいい。
犬ラブ!
私はそういうふうに育ったのでございました…。
まさか自分が猫と暮らすようになるなんて、
考えてもみなかった。
しかし、今…
何の因果か、足元に猫ふたり。
共に暮らして、十年あまり。
「この十余年に、きみらふたりが一緒にいなかったら、
私は、道の途中で、アイスクリームみたいにふにゃらか溶けて、
いまごろ生きてなかったかもしんないよ。
あぶねえー。
よくぞ私のところに来てくれた!おまえら!」
と思う飼い主。
縁は不思議なのです。